細胞のサイズや形状は,細胞周期や外部環境に応じて変化することが知られています.一方,細胞が持つゲノムコピー数は一定に保たれています.即ち,細胞サイズ(体積)は様々であるにも関わらず,タンパク質合成は一定数のゲノムから行われていることになります.タンパク質合成は転写・翻訳・多量体形成から成る非線形反応であるため,反応場の体積に大きく影響を受けると考えられます.
そこで我々は,ガラス製チャンバー内で一定数のDNAからタンパク質(β-グルクロニダーゼ(GUS),β-ガラクトシダーゼ(GAL))合成の様子を観察し,それらに対する反応場体積の効果について調べました.GUSとGALは共に四量体酵素であり,それらの合成反応はそれぞれ4次,1次反応です.実験の結果,GAL合成は反応場体積に影響を受けないのに対し,GUS合成のタイムコースは反応場体積によって大きく異なっていることが分かりました.この結果は,GUSの合成反応が小さいチャンバーで促進されたことを示しています.一方,小さいチャンバーでは反応基質の枯渇が早く起こるため,より早い時間で反応が停止します.このように,小さいチャンバーでの反応促進と基質枯渇による早期の反応停止という対照的な振る舞いの結果,GUS合成反応には反応産物量が最大となる最適な反応場体積が存在することが明らかになりました.